新型コロナウイルス後の世界と働き方

左からLHH転職エージェント(アデコ株式会社)人財紹介事業本部長 板倉 啓一郎、池上彰氏、増田ユリヤ氏

プレゼントキャンペーン実施中 ※本キャンペーンは終了いたしました

今回、対談に登場頂きました池上彰さん、増田ユリヤさん共著の「コロナ時代の経済危機」「感染症対人類の世界史」の2冊セットを抽選で200名様にプレゼントいたします。

今、コロナ禍で重要なリーダーの言葉

板倉 本日は、このコロナ禍で目まぐるしく変わる雇用情勢や働き方の変化についてお話を伺い、ヒントをいただければと思い、『感染症対人類の世界史』『コロナ時代の経済危機』(ポプラ新書)を立て続けに上梓された、池上彰さんと増田ユリヤさんをお招きしました。お越しいただき、ありがとうございます。アデコ株式会社の人財紹介事業であるLHH転職エージェントの本部長を務めております、板倉です。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
早速ですが、まず、『コロナ時代の経済危機』の中でも触れられていましたが、至近の世界的な経済危機として、2008年のリーマンショックがあります。現在、リーマンショック以来の厳しい経済状況ですが、その違いなど、お気づきの点をお教え下さい。

池上 リーマンショックは基本的に金融が麻痺したことによって起こったわけですよね。だから逆に金融さえ立て直せば、経済はある程度回復軌道に乗ると考えられました。しかし今回のコロナ禍は、感染症の広がりを防ぐために、人の動きが抑えられることで様々な需要が消滅してしまうという状況ですから、深刻です。リーマンショックのときは、まずは金融を立て直そうということでした。それが今回のコロナ禍では、需要をどうやって戻すかが難しい。ワクチンができて、うまく感染の拡大が抑えていける状況にならないと、以前のような生活を取り戻すのが難しい。そこが大きな違いですよね。

増田 自然が相手ですから、予測が立ちにくいのが大きな問題です。今、生きている私たちにとっては初めての経験ですから、それぞれがどう捉えるかが、難しいと思います。

池上 人類は、リーマンショックやオイルショックという経済不況や恐慌はこれまで何度も経験してきました。しかし感染症で経済がストップする経験は、感染症というものを人類が認識してから初めてのことでしょう。

増田 ですから経験してないことに対して立ち向かう力を、それぞれの人たちがどれだけ持っているかが、カギになってくると思っています。

板倉 今回、政府は大きな財政出動をしていますが、リーマンショックのときは、出し渋った結果、不況が長引きました。今、世界各国も財政出動をしていて、ここで経済を潰してしまわないようにということで進んでいると思うのですけれど、この先ですね、日本はGDPの2.4倍くらいの借金がある状況の中、更に借金が膨らんで、どうなるのでしょうか?

池上 世界中で政府がお金を出しているのがどうしてかと言えば、何はともあれ、命が大事だというメッセージですよね。命あっての物種であり、感染症で多くの人が亡くなっているのに、経済がどん底になってしまったら、更に自殺する人が増えてしまう。それは避けなくてはいけないから、それぞれの国でいろんな施策を取っています。日本の財政状態も莫大な借金があって大変ですけれど、一方、その額は、日本人の金融資産をまだ超えてはいないわけです。もちろん今は緊急避難ですから、仕方がなく、いつまでもこの状況でいいわけはないですよね。だからこそ、どこかの段階でまた立て直していくという話になるんだろうけれど、その立て直しをするためには、多くの人の力が必要です。では、そのために何がなくてはならないかと言うと『コロナ時代の経済危機』に書いているように、指導者の言葉がとても大事だと思うんです。例えば、日本では、「Go To」や「勝負の3週間」と打ち出しますけど、それがなんのためなのかという具体的なリーダーのメッセージが出てこないですよね。

板倉 ご本を読ませていただいて感じましたが、その点、ドイツのメルケル首相は、すばらしいですよね。

池上 メルケルさんは、今、何が大事かと言えば、要するにワクチンと治療薬ができるまでの間の時間稼ぎが必要だから、こうして欲しいと国民に合理的に訴えます。それができたら、また普通の生活に戻れるんですよという、前向きなメッセージだからこそ、我慢する目標ができて、人々は、じゃあ、がんばろうという思いになるわけです。

板倉 その通りですね。

池上 今こそ、リーダーの言葉が大事だということですよね。

増田 リーダー自身の生き方や人間味が出ますよね。何を大事に生きていて、他の人たちにもその大事であることを共有して欲しいという。そういうメッセージが大事なのだと思います。例えば日本の場合、こういうことを言ってしまったら攻撃されるから、これを言うのはよそうという意識の方が先に立ち、結局、その繰り返しの結果、もやっとした空気が抜けない気がするんです。だから、もし責められるところがあったとしても、その責められる指摘のもう1つ踏み込んだ説明をきちんとしてくれるだけで、随分違うと思いますし、それがリーダーの務めだと思います。

池上 リーダーが何をしようとしているかよくわからないから、みんなが不安になる。例えば今、財政赤字が大変で、赤字国債を出していいのかと言われたとしても、いや、これは緊急避難であって、いいことでないことはわかっているけど、命を助けて、経済を戻してから財政再建をするんだという明確なメッセージを出せば、少しは不安が解消されると思うんです。

変わった働き方とそれを揺り戻す力

板倉 弊社は、雇用の分野を専門に仕事をしていますから、有効求人倍率を1つの指標にしておりまして、この数字に我々のマーケットはかなり左右されています。その有効求人倍率が2019年、1.62まで上がりました。それが2020年は、コロナ禍によってからどんどん下がり、9月で1.02、10月が1.03でした。しかしリーマンショックのときは、求人倍率が0.42まで下がったんです。

池上 そこまで下がりましたか。

板倉 金融というのは、やはり経済の血液のような役割があって、全ての企業に影響したんです。今回は、政府が雇用維持の施策をとっていることもあり、なんとか求人倍率は1を切らないで収まっています。

池上 リーマンショックのときは、自動車産業がとりわけ深刻でしたけど、おしなべてどの業界にも影響がありましたよね。今回は、業種によって違うのではないですか?

板倉 業種によってかなりわかれています。

池上 IT業界などはよいのではないですか?

板倉 ここ4半期の当社の紹介実績では、ITやメディカル産業は堅調しています。落ち込みが大きかったのは、ファッションなどの小売りです。意外と堅調なのが、建設や不動産業ですね。リーマンショックのときは、証券や金融系が大きく落ち込んで、建設業も同じように業績が悪化したのですが、今回、それらは伸びています。

池上 緊急事態宣言中も公共工事をはじめ、工事は続いていましたからね。

板倉 そこを止めてしまうと、経済が止まってしまうのも確かですからね。こうした業種による差異もありますし、感染症下での経済活動の変化でいうと、働き方が大きく変わったとも考えています。コロナ以前から進んできた働き方改革が、コロナによって後押しされ、より多様化していると思うのです。例えばリモートワークが進んでいることに関して、どういうふうに捉えておられますか?

増田 こうして強制的に、リモートワークを進めざるを得ない状況になって初めて働き方を変えられたのかなというのが、強く感じたところです。でも一方で、今、元通りの形態に戻ってしまった職場もかなりの数あります。リモートワークになったからどこで仕事をしてもいいということで、それこそ不動産の堅調にも繫がったように、都市からあちこちへ越した方たちもいました。けれど、いろいろな環境を探してせっかく引っ越した方たちも、長時間かけての通勤を強制させられたりして、揺り戻しが起こっています。その戻ってしまう力がこんなに働くところが、日本の社会ならではと感じているところですね。

池上 日本企業には、「なんのためにこの人いるの?」という中間管理職的な役割の人がいますよね。リモートワークが進んだことで、実際に仕事を動かしている現場にとっては、彼らはいらなくなってしまったわけです。そんな彼らにしてみれば、元に戻したいんじゃないですか(笑)。

板倉 弊社は、リモートワーク推進を2018年頃から取り組んでおりまして、コロナの前もリモートワークを2割ほど実践していました。LHH転職エージェントの本部では、2月15日に一斉にリモートワークにすると決めて、開始しました。

池上 2月に一斉にリモートワークとは、早いですね。

板倉 はい。正に2割から進まなかった状況だったんですが、思い切ってやってみようということで踏み切りました。

増田 今も続けられているんですか?

板倉 出社率を3割以内に収めるように続けています。また、感染が増加傾向に入ると、原則リモートワークにして、フレキシブルに対応しています。ただ、当然、メリットもあればデメリットも出てきますから、試行錯誤しているところはあります。

進むオンライン面接と変化する仕事環境

増田 転職支援をリモートワークでするというのは、具体的にどんな状況ですか?

板倉 まず、候補者の方をスカウトして面談することなどは、これまでは基本的に対面でしてきました。それが今はほとんどリモートで面談しています。また、企業との面接も、統計を取ると、1次、2次と面接で違いますが、1次面接のオンラインの率は、IT業界はほぼ100%。まだまだ低い業界もあります。最終面接は、やはり候補者に直接会いたいという企業が多くて、非常事態宣言が終わってから、徐々に戻ってきて、オンラインでの面接は3割位です。全体的に、1次は6割、最終面接が3割ほど、オンラインで行われています。面接のために候補者を呼んで、部屋を用意するより、オンラインであれば、お互いにとって便利だというニーズが合っている点も増加の要因だと思います。

池上 でも、人を採用するとき、初めて会う人をオンラインの面接で採用するかどうか決めるのってとても難しいんじゃないですか?

板倉 実際に会って、人物を確認することで、入ってくるところから、いろいろな所作を見て、五感で得るところがあります。それがオンラインの画面からだけでは、難しいかもしれません。我々もコロナ以前は、インパーソンで会うことを大事にしようとずっと言ってきたんです。ですから我々も不安な面は当然ありますし、お客様もそう思っているのが実際だと思います。ただ、それを言っていると、今、特に若い人からは、「この会社、面接に呼ぶ」と。

池上 なるほど(笑)。

板倉 面接に呼ぶなんて遅れた会社だという声が挙がるんですね。

増田 そんな意見が出てくるんですね。

池上 直接会うことで、印象や仕草からお互い得るところがあるはずなのに。

板倉 ええ、そういう情報や理解は実際に会った方がまだまだ数倍高いと思っています。あとはアンケートを取っても、今はリモートワークができるかどうかが条件面で重要なポイントになっているんです。

池上 直接会ってすぐにその人を見抜く力を持っている増田さんはどうですか?

増田 また、そういうことを(笑)。でも、オンラインで話すことが得意な人と不得意な人がいると思うんです。実際に会うと、もっと好印象なのに、どうしても画面越しだと硬くなってしまったり、自分をうまく表現できない人もいるでしょう。逆にオンラインだからこそ率直に言える人もいるかもしれません。ただ、時代が違うと思うのは、私たちの世代は、就職試験の際には、会社に合わせて、ここで自分の考えを言ってしまったら面接で落とされるかもしれない、だから相手の求めている答えを言って、試験に臨んでいたところがあったと思うんですね。それが今は違うんだなと思いました。

板倉 嫌なことがありながらも、我慢して会社に合わせてやっていけば、会社も最後まで面倒を見てくれるし、生活も安定するという時代がありました。しかし、今の若い人はその点ではかなり自由ですね。会社との距離感がすごくあります。今回、コロナによって社会や仕事の状況が不安定化したことで、会社だけに囚われるような考えから益々離れたという感覚があります。ですから、一概に悪いとは思っていないですが、若い人の離職率はどんどん高くなっていますし、更に今後、転職のサイクルが早くなるのではないかと考えています。

池上 就職活動における勝ち組、負け組なんて状況もあります。

板倉 今の若い人たちは、企業を選べる状況もありますが、一方、実際の就職活動では、デジタル化が進んで、どこでもインターネットでエントリシートを送れますから、30社でも50社でも応募が可能です。ですが、実際に書類が通るのが10社ほどで、そこから面接へ行って、最後は2社か1社になってしまう。そうすると、本当にそこまで自由度があるのかと言えば、厳しい状況もあると思います。

池上 昔は、エントリシートは手書きで、1枚書くのも大変でした。だから自由度が広がったように見えて、むしろみんながそれだけの作業に時間を取られてしまっているとも言えますね。

リモート時代に問われる様々な新しい能力

板倉 リモート面接は、確かに不安な面もあるのですが、可能性もあると考えています。例えば今、営業は汗をかいて、ローラー作戦で展開するなんて昔ながらの方法はなくなっています。今後はオンラインでアポイントメントを取って、リモートで営業をする場面が確実に増えるでしょう。そうすると、増田さんがおっしゃっているように、営業職をリモートで採用すれば、オンラインでうまく表現できる人の方が活躍することも多くなるのではないかと考えます。

池上 「営業は足が命」なんて言葉もありましたが、既に古くて、今はリモートで営業も相当程度できるということですね。

増田 その点に関しても、うまくいく人と、そうではない人とにわかれるかもしれませんね。

板倉 そこで、やはり個々人の適性をうまく掘り起こして、マッチングをしないといけません。ただ、私も営業同行をするのですが、2020年の後半3か月は、3分の2がリモートでした。今、営業でアポイントを取ると、お客様も「来なくていいです」とおっしゃいます。社内での会議や打ち合せも当然、以前であれば、日程を調整してどこかに集まって、行ったり来たりしていましたが、全く関係なくなっています。お客様の話を伺っても、同じように、すぐ画面上で集まって、海外出張に行ってる人まで参加できるというのが現状です。

池上 それこそ海外出張をしなくても仕事になるわけですよね。

板倉 以前は年に3、4回は、海外出張をしていましたが、今年は完全に中止です。出張しなくても、仕事や会議は基本的にはできています。

池上 増田さんもアメリカ大統領選挙の取材に行けなくて、リモートで取材をしていたよね。

増田 そうですね。それで事足りる部分もありますが、ただその場の空気感はわからないです。だから、この状況が長く続くと、どうなのかと思っています。

池上 国内であろうと海外でも、前に直接会っていて、どういう人かわかっている相手とのリモートでのやり取りであれば、話はし易いですね。

増田 初めての人とのやり取りにはかなり気を遣う必要があります。

板倉 確かにそういう声は多いです。社内でも新しいメンバーで、まだ、そんなに周りとのコミュンケーションが取れていない人がストレスを感じています。また、調べると、意外と若い人の方がリモートワークがつらいと感じているんです。若い人の方が自由があって、いいと感じているのではないかと思うと、案外そうではないようです。やはり気心が知れていると、場合によっては電話でもコミュニケーションが取れるんですが、初めてや、まだ関係の浅い人同士では、そうもいきませんから、中間管理職の方がストレスが少ないという統計もあります。

池上 そうなんですか。

板倉 弊社でも調べると、そうなんです。若い単身者が自分の家に籠って一人でずっと仕事をすることで不安を感じたり、友達同士の直接的なコミュニケーションも減っていますから、その影響があるのではないでしょうか。ですから若い人たちには、なるべく実際に会ったり、コミュニケーションを取る機会をうまくつくっていく必要があるかもしれません。それで今、弊社でも週の3割位は出勤してもらって、それから毎日、ハドルという15分ほどの雑談会をしています。これは普通のビジネースミーティングとは別にセットしていて、モチベーションが上がるんですね。今、全社的に広げているところです。

池上 意図的に雑談をするんですか。確かにテレビや出版の世界にしても、いろんなところで雑談することで企画が生まれますからね。

増田 他にもリモートワークのメリットはどういう点がありますか?

板倉 お客様も最近はリモートミーティングでOKなところが多いですから、現場に30分前に着くようにお客様のところへ常に出かけたり、会議室を準備するなどということがなくなり、次のアポイントメントも5分後に開始できます。これはすごい違いです。

池上 それはそれで仕事が詰まって大変でしょうけど(笑)。

板倉 あと、やはりメリットを感じているのは、小さいお子さんを育てている人たちですね。リモートの仕事環境のお蔭で、仕事の仕方が変わり、弊社でも管理職に挑戦してくれる女性が増えています。また、遠くから通勤している人も、通勤に取られていた時間を別のことに使えるといった利点が挙げられます。更に転職サポートの件数でも女性の比率が少し上がっているのは、リモートでの仕事環境の多様化が影響しているからだと思います。

増田 リモートワークをしていると、子育てをはじめ、その方のバックグラウンドが見えますよね。そうすると、こんな様子でがんばって働いているんだという姿も見られたり、家庭の中でこんなに大変な状況で働いているんだということを知ったり、それで親密感が生まれたりする。そういうメリットもありますよね。

池上 リモートの打ち合せが終わったあとで、個別に電話して、「みんなの前では言えなかったけど」なんてこともあるんじゃないですか?

板倉 日本人は本当に、そういうところがあります(笑)。コロナ前は、海外での会議なども多かったのですが、若い人もみんな意見を言うのが当たり前の文化です。意見を言わないのであれば、いる必要はないと。この点はリモートになっても日本人の変わらないところです。よっぽどうまく聞き出さないと、反応がなかったり、意見を言ってくれないことが多いです。日本は、大勢に委ねて、集団の中にいればいいという傾向が強いですから、そんな今の日本の状況に対しては危機感を持っています。日本だけでやっていくことはできない時代ですから、世界と関わっていく上で、発信力や発言力を高める改革をしていかないと、まずいと思っていますね。

池上 日本国内だけであれば、これまでのままでもいいかもしれないですけれど、世界を相手にしなくてはならないとなると、それでは通用しない。増田さんも世界中いろんなところで取材をしているから、よくわかるんじゃないですか。

増田 そうですね。海外では、自分の考えを持っていないと相手にされないところがあります。

池上 と同時に、リモートの会議などで、参加者に考えや本音を発言させるファシリテーターの能力が経営者には求められますね。

板倉 それは常々感じています。こちらからどうやって話を投げかけ、話題の設定はどうするか、どうしたら話し易い雰囲気になるか、そういうことは、ファシリテーターの問題だと思います。

池上 リモート時代の新しい能力が問われるということですよね。

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