進化する「女性活躍推進法」、最新動向とポイント

2016年4月に施行された「女性活躍推進法」(女性の職場での活躍を推進する法律)は、女性が能力や個性を存分に発揮できる社会の実現をめざし、国・地方公共団体と民間企業が果たすべき義務を明確にした法律です。

企業に自社の女性活躍に関する状況把握・課題分析・行動計画策定・情報の公表を義務付けているのが特徴です。
義務の対象となる企業規模の拡大や公表する情報内容の強化など、施行から6年を経て進化している「女性活躍推進法」の最新動向とポイントを解説します。

採用・労務に関する最新のお役立ち情報をお届けします。

政府が推し進める女性活躍推進法とは

この推進法では、女性が働きやすい環境づくりを企業に求めています。10年の集中期間を設定することで、スピードをあげて実現を図る狙いがあります。

【3つの基本原則】

  1. 1
    女性に対する採用、昇進の機会の積極的な提供と活用、性別による固定的役割分担を反映した職場慣行が及ぼす影響に配慮すること
  2. 2
    仕事と家庭生活との円滑かつ継続的な両立を可能にすること
  3. 3
    女性の仕事と家庭生活との両立について、本人の意思を尊重すること

義務化の対象範囲

義務の対象範囲は企業規模で異なり、2022年4月から拡大しています。

2016年4月〜
2022年4月〜
義務 常時雇用する労働者が301人以上の企業 常時雇用する労働者が101人以上の企業を追加
努力義務 常時雇用する労働者が101人以上の企業 常時雇用する労働者が100人以下の企業を追加

結果、2022年4月からは、従業員101人以上の企業が義務の対象になりました。

法律に定められた企業の2大義務

1行動計画の策定と公表
  • 自社の女性の活躍に関する状況把握、課題分析
  • 行動計画の策定、社内周知、公表
  • 行動計画の届け出(各都道府県労働局)
  • 取り組みの実施、効果の測定
2女性活躍推進に関する企業情報の公表
  • 女性に対する仕事に関する機会の提供の実績
  • 仕事と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備の実績

この2大義務をどのように実施・遂行すれば良いのか、順を追って解説します。

解説「行動計画の策定と公表」

STEP1自社の女性の活躍に関する状況把握、課題分析

下記は必須項目として算出する必要があります。

採用に占める女性の割合
「直近の事業年度の女性の採用者数(中途採用含む)」÷「直近の事業年度の採用者数(中途採用含む)」×100(%)
男女の平均継続勤務年数の差
各月の平均残業時間数の状況
「各月の対象労働者の(法定時間外労働+法定休日労働)の総時間数の合計」÷「対象労働者数」
管理職に占める女性の割合
「女性の管理職数」÷「管理職数」×100(%)

STEP2行動計画の策定、社内周知、公表

行動計画の策定
STEP1の「状況把握」「課題分析」の結果を踏まえ、行動計画を策定します。
行動計画には「1.計画期間」「2.数値目標」「3.取り組み内容」「4.取り組みの実施時期」を必ず記載します。
  • 行動計画の内容は、男女雇用機会均等法に違反しないこと。
社内周知
策定、変更した行動計画は、パート・契約社員を含むすべての労働者に周知しなければなりません。
手法として、事業所の見やすい場所への掲示、電子メールでの送付、企業内ネットワークへの掲載、書面配布などが挙げられます。
公表
策定・変更した行動計画は、外部にも公表しなければなりません。
手法として、厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」への掲載、自社のホームページへの掲載などが挙げられます。
掲載例) Adecco Group:女性活躍推進法行動計画について
  • 公表内容は、次項の解説「女性活躍推進に関する企業情報の公表」参考。

STEP3行動計画の届け出(各都道府県労働局)

行動計画を策定・変更した場合、管轄の都道府県労働局に電子申請、郵送または持参して届け出る必要があります。
所定の「行動計画策定・変更届 」の使用が推奨されています。必要事項が記載されていれば有効な届け出となります。

STEP4取り組みの実施、効果の測定

数値目標の達成状況や行動計画に基づく取り組みの実施状況を点検・評価し、その結果を計画に反映させることが求められています。

解説「女性活躍推進に関する企業情報の公表」

公表内容は、大きく2つに区分されています。

  1. 1
    女性に対する仕事に関する機会の提供の実績
  2. 2
    仕事と家庭生活との両立に関する雇用環境の整備の実績

常時雇用する労働者が101人以上の企業は、上記の区分から1項目以上を選択し、各区分の中の2項目以上公表する必要があります。(2022年3月までは301人以上でしたが、適用範囲が拡大)

区分1:女性に対する職業生活に関する機会の提供の実績

  • 採用した労働者に占める女性の割合(雇用管理区分ごと)
  • 男女別の採用における競争倍率(雇用管理区分ごと・中途採用を含む)
  • 労働者に占める女性の割合(雇用管理区分ごと・派遣社員を含む)
  • 係長級にある者に占める女性の割合
  • 管理職に占める女性の割合
  • 役員に占める女性の割合
  • 男女別の職種、雇用形態の転換実績(雇用管理区分ごと・派遣社員を含む)
  • 男女別の再雇用または中途採用の実績(中途採用の対象者はおおむね30歳以上の正社員)
  • 男女の賃金の差異(必須)※2020年7月から追加

区分2:職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備の実績

  • 男女の平均継続勤務年数の差異(対象は無期雇用者)
  • 10事業年度前およびその前後の事業年度に採用された労働者の男女別の継続雇用割合
  • 男女別の育児休業取得率(雇用管理区分ごと)
  • 労働者の1カ月当たりの平均残業時間
    ※「1年間の対象労働者の(法定時間外労働+法定休日労働)の総時間数の合計」÷12(カ月)÷「対象労働者数」
  • 労働者の1カ月当たりの平均残業時間(雇用管理区分ごと・派遣社員を含む)
  • 有給休暇取得率 (雇用管理区分ごと)

上記の公表内容は、おおむね年1回以上更新。いつの情報なのか分かるよう更新時点を明記。
厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」や自社ホームページの利用などにより、学生をはじめとした求職者が閲覧できるようにする。

実施企業のメリット・対応しない企業のリスク

女性活躍推進法に罰則はありませんが、実施企業のメリットは大きく、逆に対応しない企業のリスクは小さくありません。

実施するメリット

1優秀な人材の確保と定着
厚生労働大臣が定める「えるぼし」認定マークを商品や広告に付与することで、女性活躍推進企業であることをPRでき、優秀な人材の確保と定着に結び付ける効果が期待できます。
2企業イメージの向上
女性が働きやすい企業をPRすることは、企業イメージの向上につながり、企業価値の向上が期待できます。企業文化の改革や業務改善に積極的に取り組んでいる企業としても広く認知されます。
3他社との差別化
女性活躍推進法の対象企業は、行動計画を外部に公表する必要があるため、競合他社の取り組みを把握することができます。そのうえで、課題を分析して独自の取り組みに挑み、競合他社との差別化を図ることも可能です。

対応しないリスク

1イメージダウン
実施義務を遂行しなかったとの理由で、企業や社員が罰せられることはありませんが、可視化されているのでイメージダウンにつながるでしょう。
2罰則規定の可能性も
現段階で罰則はありませんが、行動計画は多くの対象企業が届け出ているため、近い将来、罰則規定が設けられる可能性があります。
3助言・指導、勧告の可能性
行政は必要に応じて企業に報告を求めて助言・指導、勧告を行うことが可能となっており、法律の趣旨から指導が入る可能性があります。

「えるぼし認定」と新設「プラチナえるぼし認定」

「えるぼし認定」は、女性活躍推進法で定められた行動計画を策定し報告した企業のうち、取り組み状況が優良である企業を厚生労働大臣から「優良企業」として認定を受ける制度です。
2020年6月からは、最も水準の高い「プラチナえるぼし認定」も創設されています。

女性活躍推進法に基づくえるぼし認定
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000091025.html

行動計画策定などの支援ツール

「女性活躍推進法」が施行されてから、今年で7年目に入りました。生産年齢人口の減少が続く日本で、女性が働きやすい社会をつくることは労働生産性を高める観点からも不可欠です。
政府、各都道府県労働局、地方自治体は、「女性活躍推進法」の趣旨の周知と企業に積極的に取り組んでもらうため、多数の応援サイトを設けています。

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