障がい者雇用を実践するメリットは? 問題点やミスマッチを防ぐ対策も紹介

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昨今、社会的責任を果たすためにも、「障がい者雇用」に取り組む企業は増えています。企業価値向上や助成金支給などメリットは多いですが、取り組むためには課題点を洗い出す必要があります。

そこで、障がい者雇用の法的雇用率、課題と対策、合理的配慮の具体例などを詳しくご紹介します。

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障がい者雇用で採用を行うメリット

近年、多様性を尊重する、サステイナビリティやノーマライゼーション、D&I、DE&Iといった取り組みが当たり前のように広がってきています。そして、これらに対する企業の社会的責任(CSR)を果たすために障がい者雇用を積極的に行う企業が増加傾向にあります。

一定規模以上の企業においては障がい者を雇用することが法的義務とされています。
しかし、障がい者を積極的・戦略的に雇用することは、ただ単純に義務を果たせることだけにとどまりません。多様性を尊重することで、本来スキルのある人材を確保でき、企業価値の向上にもつながります。

多様性と包括性の促進につながる

まず、障がい者を採用することは、組織のD&I(ダイバーシティ&インクルージョン:多様性・包括性)の促進につながります。多様な人材を活用することで新たな視点が加わるため、組織が集団思考によって停滞せず、生産性・創造性の向上が期待できます。

法的要件を遵守できる

法律を遵守することで、社会的信用を維持できます。

そもそも常時雇用の従業員が43.5名以上の企業では、従業員全体における障がい者の割合を法的雇用率以上にする義務が定められています。

法定雇用率は少なくとも5年ごとに見直され、民間企業の場合、2023年現在は2.3%で、2024年度から2.5%、2026年度から2.7%と段階的に引き上げられます。

そのため対象となる企業は、次に該当する方を法的雇用率以上になるように雇用しなければいけません。

  • 身体障害者(身体障害者手帳の所有者)
  • 知的障害者(療育手帳の所有者)
  • 精神障害者(精神障害者保健福祉手帳の所有者)

この義務を履行しなければ、基本的にハローワークから行政指導が入り、場合によっては企業名の公表などが行われます。その場合、信頼が損なわれるのは避けられません。
さらに、常時雇用の従業員が100名超の企業の場合、不足する障がい者数に応じて月額50,000/1名を国に納めることになります。

なお、週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の場合は「0.5名分」としてカウントされます。重度障害者(身体・知的)を雇用する場合、週の所定労働時間が30時間以上なら「2名分」、20時間以上30時間未満なら「1名分」としてカウントされます。

障がい者雇用に際しては、次に挙げる項目も求められます。

  • 賃金・配置・昇進などを拒否する行為の禁止
  • 企業内で「障害者雇用推進者」を選任すること
  • それぞれの障害特性に応じた「合理的配慮」を講じること

優秀な人材を獲得できる可能性がある

障がいのある方という点に視点をおき、採否を判断すると、本当に優秀な人材を獲得し損ねてしまう可能性があります。障がいの有無に関係なく優秀な人材はおり、そうした方を「障がいがある」というだけで採用しないのは企業にとっての損失です。

障がいというのは、日常生活が何らかの障壁によって妨げられることを指します。その障壁を取り除けることができれば、その方がその方らしく、高い能力を発揮できる場合もあります。

例えば、対人関係が苦手で精神的な負担を感じやすい人には、経理職などでもマニュアル化され人と接することが少ない仕事をしてもらったり、立ち仕事に支障がある人、体力的な負担を減らしたい人向けには、座ってできる事務職やコールセンターのスタッフなどの仕事に従事してもらうなど、それぞれの障がい特性を把握した上、適切な「合理的配慮」を行うことで、その方の特性を生かした仕事での活躍が見込まれます。該当する方から自分の障害特性や配慮を希望する内容をヒアリングし、その後具体的にどのような仕事で働いてもらえるかを一緒に考えていきましょう。

また、プライバシーに配慮した上で、その方の障がい特性と、どのような配慮が必要かを従業員にも周知することが大切です。社内環境に慣れるまではとくに、体調・勤務状況について定期的にヒアリングを行い、必要であれば調整を繰り返してください。

会社の社会的評判が向上する

ESG投資も国際的スタンダードとなりつつある今、企業の社会的信用を向上させるには、D&Iを促進して企業のサステイナビリティを高めることが欠かせません。その一環として、障がい者雇用はとても大切な取り組みです。

顧客をはじめ、投資家、取引先、監査などのステークホルダーに対して、プラスのイメージを築くことにもつながります。

助成金・調整金が受け取れる

合理的配慮を行うための経済的負担などを補い、障がい者雇用の促進を図るために、各種助成金が用意されています。

出典 厚生労働省ホームページ 「障害者を雇い入れた場合などの助成」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shisaku/jigyounushi/intro-joseikin.html

さまざまな助成金がありますが、代表的なものが「特定求職者雇用開発助成金」です。障がい者や就職氷河期世代、シングルマザー/ファザー、高齢者、住所が不定の方など、一般的に就職が難しいとされる方を継続雇用する企業に支給されます。5つのコースに分かれており、対象となる方と企業規模に応じて、1~3年の間、60~240万円までの支給額を受け取れます。

また、「障害者トライアル雇用」という制度もあります。約3~6ヵ間の試行雇用(精神障がいのある方は原則6ヵ月、最大1年)を経て、相互に問題がなければ、改めて継続雇用の契約を結びます。障がいのある方にとって就職のハードルが低くなるため、「働きたいが、自信がない」という人材の発掘にもつながります。

週20時間以上働くことが難しい場合、週10~20時間からスタートし、最大1年かけて20時間以上の就業をめざす「障害者短時間トライアル雇用」制度もあります。いずれも書類選考はなく、必ず面接を行うことが決まっています。

「キャリアアップ助成金」の「障害者正社員化コース」は、障がいのある従業員を正社員や無期雇用に転換したり、新しく障がい者を正社員や無期雇用で採用した場合に、助成金が支給されます。2022年10月1日以降は、「賞与または退職金制度」かつ「昇給」が適用されていることも条件として加わりました。「賞与は原則不支給」「賞与の支給は会社業績による」「会社の判断によって賃金を昇降給する」といった場合、助成金の支給対象外となるので注意が必要です。

障がい者雇用の課題・問題点

障がいのある方を雇用するにあたっては、これまでに「採用しても定着してくれない」「どういった仕事を割り振ればいいかわからない」などの課題・問題点を感じた経験がある担当者も多くいます。具体的な各課題・問題点を解説します。

設備などアクセシビリティの不足

職場・設備に十分なアクセシビリティ(Accessibility=円滑に利用できること)が備わっていないと、障がいのある従業員が適切に働くことは困難です。

たとえば視覚障害があって弱視の方の場合、掲示物が目線よりも高い位置にあると見えにくくなるため、業務上の注意点や共有事項などを見逃しがちになります。身体障害があって車いすを使っている方なら、エレベーターはもちろん、多機能トイレなどもなければ、勤務すること自体が不可能です。

そのため、職場設備そのものはもちろん、業務上の文書、ITツール、備品、道具・工具など、あらゆる面でアクセシビリティを確保することが欠かせません。

既存従業員とのコミュニケーションの課題

障がいのある従業員が職場に適応するには、周りの従業員に、意識的に適切なコミュニケーションを取ってもらう必要があります。そのため、固定されたイメージではなく、それぞれの障害特性についての知識を持ってもらうことが大切です。

そのためには、事前研修やレクチャーなどを行うのもおすすめです。必要であれば、コミュニケーション支援ツールの導入を検討します。

サポート不足による生産性の低下

障がいのある従業員が適切なサポートを受けられない場合、本来はできたはずの業務が滞り、全体としての生産性も低下する可能性があります。

たとえば、特定の機器を必要とする従業員に、それを提供しない、またはトレーニングを受ける機会を提供しないことや、治療のために定期的な休憩を必要とする障がいを持つ従業員に、柔軟なスケジュール調整を認めない、などが挙げられます。

障がい者雇用でミスマッチを防ぐ対策方法

上記のような問題を防ぎ、障がいの有無に関わらず全従業員がストレスフリーに働けるよう、次に挙げるような対策を行いましょう。

アクセシビリティを確保しておく

障がいのある従業員がどういった点にアクセシビリティを求めているのか、早い段階で詳細な聞き取りを行いましょう。

その際は、内部障害の場合はとくに、健常者からは想像できない困りごとを抱えていることがあるため、意外な回答を聞いたとしても、とっさに「甘え」と認定しないよう注意しましょう。できる・できないの判断と、具体的な落としどころを調整してください。

例としては、バリアフリー対策をはじめ、職場各所への点字シールの貼り付け、音声読み上げソフト、リアルタイムの字幕表示システムなどが挙げられます。

障がい者の受け入れ体制を整える

障がいのある従業員からの了承を得てから、その方の障害特性を周りの従業員に周知しましょう。障がい名を伝える必要はありませんが、それぞれの従業員に「配属の目的」「何ができるのか・何ができないのか」「具体的にどういった配慮をするのか」は漏れなく伝える必要があります。

過度な遠慮や配慮はせず、柔軟に接することを求めます。とくに、よかれと思って一方通行の思いやりを押し付けないように注意が必要です。

サポートを担当する従業員に対しては、状況を定期的に聞き取るなどし、負担が偏らないようにします。

個別のサポートを計画しておく

仕事のしやすさに格差が出ないよう、それぞれの障害特性に合わせたサポート、つまり合理的配慮について考える必要もあります。

合理的配慮の例としては、次のようなものが挙げられます。

  • 例1

人込みに対する精神的不安が強いため、時差通勤を導入し、通勤時の混雑によるストレスを軽減するための環境を提供する。

  • 例2

複雑な表現が不得手であるため、平易な文章で書いたマニュアルを紙ベースで配布し、担当業務の急な変更は避ける。

  • 例3

体調やパフォーマンスの波が激しいことから、短い納期のタスクは割り振らないようにし、柔軟に欠勤や出勤日の移動ができる体制を整える。

まとめ

障がい者を積極的に採用することは、助成金支給・企業信頼性向上だけでなく、多様性・包括性を高めることで全体的なパフォーマンス向上につながるなど、さまざまなメリットがあります。

それぞれの障害特性や「できること・できないこと」を聞き取り、相互に無理のない範囲での現実的な合理的配慮を行うことで、その方が持つ本来のスキルを発揮してもらえます。

障がいがあっても一人の人として対等なコミュニケーションを心がけることで、ほかの従業員の間でも、チームとしてサポートし合って成果を出すという風土が根付いていきます。

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