副業・兼業ガイドライン

多様な働き方の一環として政府は、副業・兼業を推進しています。2022年6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)のなかでも、「多様なキャリア形成を促進する観点から副業・兼業を推進する」と明記。企業に柔軟で速やかな対応を促しています。

新型コロナウイルスの影響で自宅待機やテレワークが広がったことを受け、働き手にも副業に挑戦する機運が高まりました。企業が副業・兼業を容認する場合のメリットや留意点、手順などについて、政府が2020年9月に公表した改定版「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を基にポイントを解説します。

副業・兼業とは

「副業・兼業」という言葉をセットで聞くことが多いですが、それぞれ使い分けたり、逆に同じ意味として扱ったりするケースが散見されます。
また、企業によっては、「複業」という表現を用いて、「本業と副業の境界線を明確にしない」場合もあります。

最近では、

  • 副業…本業の合間に行うサブ的な仕事
  • 複業(兼業)…複数の仕事をすべて本業として行うこと

という整理が一般的です。

副業・兼業は、新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、そして第2の人生の準備として有効です。
また、人生100年時代を迎えた今、若いうちから、自らの希望する働き方を選べる環境を作っていくことが必要です。

推移と現状

Adecco Groupが上場企業に勤務する30代から50代の管理職510名を対象に実施した「副業・複業に関するアンケート調査」(2018年・2021年比較)によると、社員の副業・複業を認めている企業は37.2%(2018年比14.4ポイント増)、禁止している企業は51.8%(同14.5ポイント減)と、副業・兼業を認めている企業は増加傾向にあります。

【調査結果のポイント】

  1. 勤務先での「副業・複業」の許可
    ・4割の企業で「副業・複業」が認められている。2018年より15ポイントアップ
  2. 企業で「副業・複業」が認められている理由
    ・2021年1位「本人のスキルアップにつながるから」、2位に「イノベーションの促進」
    ・長期的な視点でのメリットが上昇傾向
  3. 現在、「副業・複業」を禁止している企業で将来的に認めることを検討
    ・2割以下にとどまる
  4. 「副業・複業」を行っている人の雇用について
    ・「受け入れている」3割以下、半数以上が「受け入れる予定がない」
  5. 今後、「副業・複業」の日本での広がりについて
    ・ 7割以上の管理職が広がると予想

副業・兼業のメリットと留意点

働く人のメリット

  • 離職せずに別の仕事に就くことが可能となり、スキルや経験を獲得。主体的にキャリアを形成できる
  • 本業の所得を活かして、自分がやりたいことに挑戦でき、自己実現を追求できる
  • 所得が増加する
  • 本業を続けつつ、よりリスクの小さい形で将来の起業・転職に向けた準備・試行ができる

働く人の留意点

  • 就業時間が長くなる可能性があるため、労働者自身による就業時間や健康の管理も一定程度必要
  • 職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務を意識することが必要
  • 1週間の所定労働時間が短い業務を複数行う場合には、雇用保険等の適用がない場合があることに留意が必要

企業のメリット

  • 労働者が社内では得られない知識・スキルを獲得できる
  • 労働者の自律性・自主性を促すことができる
  • 優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上
  • 労働者が社外から新たな知識・情報や人脈を入れることで、事業機会の拡大につながる

企業の留意点

  • 必要な就業時間の把握・管理や健康管理への対応、職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務をどう確保するかという懸念への対応

「副業・兼業」を認めるチェックポイント

副業・兼業に関する裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由となっています。裁判例を踏まえれば、原則、副業・兼業を認める方向で検討することが適当でしょう。

STEP1就業規則等の整備

  1. 1
    副業・兼業を禁止、または一律許可制にしている企業は、副業・兼業を認める方向で就業規則等の見直しに着手
  2. 2
    就業規則等の見直しにあたっては、
    • 副業・兼業を原則認めること
    • 労務提供上の支障がある場合など、裁判例において例外的に副業・兼業を禁止または制限することができるとされている場合を必要に応じて規定
    • 副業・兼業の有無や内容を確認するための方法を労働者からの届け出に基づく形に変更
  3. 3
    副業・兼業に伴う労務管理を適切に行うためには、届け出制など副業・兼業の有無・内容を確認するための仕組みを設けておく
  4. 4
    副業・兼業に関しては、
    • 労働者の心身の健康の確保、ゆとりある生活の実現の観点から法定労働時間が定められている趣旨も踏まえ、長時間労働にならないようにする
    • 労働基準法や労働安全衛生法による規制等を逃れるような形態で行われる副業・兼業は認められず、使用者責任が問われる
    • 労働者が副業・兼業に係る相談・自己申告等をしやすい環境づくりが重要であり、労働者が相談・自己申告等を行ったことにより不利益な取扱いはできない
  5. 5
    副業・兼業を許容しているかどうか、許容の場合はその条件などについて、就業規則に明記してホームページなどを通じて情報公開(※2020年7月追加)

STEP2副業・兼業の内容の確認

  1. 1
    企業は、労働者の副業・兼業を知ることができないため、労働者からの申告等により、副業・兼業の有無・内容を確認する必要がある
  2. 2
    企業は、副業・兼業が労働者の安全や健康に支障をもたらさないか、禁止または制限しているものに該当しないかなどの観点から、副業・兼業の内容として次のような事項を確認する

基本的な確認事項

  • 副業・兼業先の事業内容
  • 副業・兼業先で労働者が従事する業務内容
  • 労働時間通算の対象となるか否かの確認

労働時間通算の対象となる場合に確認する事項

  • 副業・兼業先との労働契約の締結日、期間
  • 副業・兼業先での所定労働日、所定労働時間、始業・就業時刻
  • 副業・兼業先での所定外労働の有無、見込み時間数、最大時間数
  • 副業・兼業先における実労働時間等の報告の手続き
  • これらの事項について確認を行う頻度

所定労働時間の通算について

  1. 1
    STEP2で確認した副業・兼業の内容を踏まえ、自社の所定労働時間と副業・兼業先の所定労働時間を通算し、時間外労働となる部分があるかを確認
  2. 2
    所定労働時間を通算した結果、自社の労働時間制度における法定労働時間を超える部分がある場合は、その超えた部分が時間外労働となり、時間的に後から労働契約を締結した企業が自社の36協定で定めるところによってその時間外労働を行わせる

健康管理の実施

  1. 1
    企業と労働者がコミュニケーションをとり、労働者が副業・兼業による過労によって健康を害したり、現在の業務に支障をきたしたりしていないか確認
  2. 2
    使用者は、労使の話し合いなどを通じて、以下の健康確保措置を実施することが重要
    • 労働者に対して、健康保持のため自己管理を行うよう指示
    • 労働者に対して、心身の不調があれば都度相談を受けることを伝える
    • 副業・兼業の状況も踏まえ必要に応じ法律を超える健康確保措置を実施
    • 自社での労務と副業・兼業先での労務との兼ね合いで、時間外・休日労働の免除や抑制
  3. 3
    使用者の指示により副業・兼業を行う場合、使用者は、原則として、副業・兼業先の使用者との情報交換により労働時間を把握・通算し、健康確保措置を行うことが適当
  4. 4
    労働者は、副業・兼業を行うにあたっては、副業・兼業先を含めた業務量やその進捗状況、 それに費やす時間や健康状態を管理
  5. 5
    使用者による健康確保措置を実効あるものとする観点から、副業・兼業先の業務量や自らの健康状態等について企業に報告することが有効
  6. 6
    健康診断や長時間労働者に対する面接指導などは各事業場において実施。実施対象者の選定にあたって、副業・兼業先の労働時間は通算されないことに留意

「改定ガイドライン」の主なQ&A

Q.自社で雇用され、副業・兼業先においても雇用される場合、労働基準法における労働時間等の規定の適用はどうなるのか。
A.
労働基準法で「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定されており、「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含む。
Q.定休日における労働時間はどのように通算するのか。
A.
自らの事業場における法定休日に労働させた場合は、休日労働となり、休日労働の割増賃金が必要になるほか、単月 100 時間未満・複数月平均 80 時間以内の時間外労働の上限規制については、休日労働の時間も含む。
Q.管理モデルの導入に伴う労働時間の上限設定に当たっては、使用者A・使用者B間で書面を交わすことが必要か。
A.
副業・兼業の開始後のトラブルを防止する観点から、管理モデルの実施に当たり必要となる情報は書面(電磁的方法でも可)により使用者A、使用者B、労働者の三者間で共有しておくことが望ましい。共有の方法としては、使用者Aが労働者に対して管理モデルによる副業・兼業の実施に当たって必要な情報を通知し、その通知を労働者が使用者Bに共有することが想定される。
Q.副業・兼業を行う労働者と時間的に後から労働契約を締結した使用者の立場から管理モデルを導入することは可能か。
A.
時間的に後から労働契約を締結した使用者Bの立場としても、労働者と労働者を通じて使用者Aに管理モデルの導入を求め、労働者と使用者Aがそれに応じることにより、管理モデルを導入することは可能。
Q.副業・兼業の形態(雇用型、非雇用型など)や副業・兼業を行う対象者の自社における働き方の属性(管理監督者、裁量労働制適用者など)によって、副業・兼業を禁止又は制限をすることは可能か。
A.
各企業において、副業・兼業を禁止又は制限できるのは、
  • 労務提供上の支障がある場合
  • 業務上の秘密が漏洩する場合
  • 競業により自社の利益が害される場合
  • 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
と解されているが、禁止又は制限の妥当性については、個々のケースに応じて慎重に判断されるものになる。
Q.「副業・兼業の促進に関するガイドライン」において、副業・兼業を行う者の健康確保に資する措置の一つとして、労働者に「健康保持のため自己管理を行うよう指示」することが挙げられているが、具体的にどのような形で指示を行えば良いか。
A.
「健康保持のため自己管理を行うよう指示」について、指示の方法については、例えば、労働者が副業・兼業を開始する際に伝えることや、副業・兼業に関する社内ルールで明示する方法などが考えられる。なお、指示の方法や自己管理として実施する内容について、その詳細については、労使で話し合って決めることが適当。

副業・兼業を後押しする公的機関のパンフレット

副業・兼業の促進に関するガイドライン~わかりやすい解説(厚生労働省)

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