新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、近年続いてきた新卒学生の売り手市場にかげりが見えています。また、学生側の志望業種や職種に対する考え方も、コロナ禍で変わってきています。2020年度の採用活動のなかで、各企業はどのような対応をしてきたのでしょうか。また、2021年度の採用活動は、どんなところがポイントとなってくるのでしょうか。
大きく変動する現代社会において、企業がほしい人材をどう確保していくべきか、LHHの戸塚望が、企業の人事担当の方へヒントをお伝えします。
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新型コロナウイルスの影響で新卒採用市場は「学生有利」から「企業有利」に
新型コロナウイルスの影響で経済的な打撃を受けている業種や、業績が悪化している企業のなかには、新卒採用を中止したり、採用数を大幅に削減したりする企業も出てきています。一方、生活スタイルが変化したことで、製品やサービスの需要が急増した業種・企業は、逆にいい人材を採用するチャンス。そういった企業の場合は、採用を強化する動きもあります。
全体的には、厚生労働省によると2020年10月1日時点の大学生の就職内定率は69.8%と、5年ぶりに70%を下回りました。2020年8月時点の有効求人倍率も前年同月(2019年8月)の1.59倍から1.04倍に低下しています。新卒採用の現場では、これまでの「学生有利」の新卒市場が、「企業有利」に変わった感覚があります。
学生側の企業選びにも変化 IT系の人気が高まっている
学生側の企業選びにも新型コロナウイルスの影響が出ていて、これまで人気業種だった観光、航空、エンタメ業界などの人気が凋落。代わりにコロナ禍でも堅調なIT系などの産業への志望者が増えています。安定志向が高まり、公務員志望も増加傾向。学生が抱いている危機感が、業種や企業選びにも反映されています。
LHHで、新卒の就活支援を担当するコンサルタントの戸塚望は次のように話します。
「私が担当しているIT系の企業は、2019年と同じ採用活動をしていても、2019年の2倍以上の学生が集まっています。また、採用活動のオンライン化が進んでいる企業には応募が集中し、オンライン化が進んでいない企業は、学生を集めることが厳しくなっています。学生からは、『コロナ禍ではオンラインでないと不安だ』『こんな事態になってもオンラインのインフラが整っていない企業で大丈夫か』という声も聞かれました。一方で、オンライン化でこれまでよりも多くの学生を集めたことで、採用におけるノイズ = ターゲット外の学生との接点ばかりが多くなり、逆に採用の質が従来よりも落ちてしまった、という新たな課題に直面した例もあります」(戸塚)
インターンからの直結採用に一部解禁の動きも
コロナ禍でのインターン(就業体験)は、オンラインで実施するところもありますが、人数を絞ってフィジカルで実施するという企業も一定数ありました。そもそもインターンの目的は、実際の現場に入ってその会社で働く体験をしてもらうところにあるので、選考に比べてオンライン化は進んでいません。
これまで文部科学省と経団連は、「インターンはあくまでも教育の場であって、選考や採用の場ではない」と位置づけて主張してきました。しかし、コロナ禍でも雇用を守らないといけないという風潮のなかで、新たに「インターンから一部採用に直結した動きを認めていく」ことを、公に容認する動きが出ています。今回のこの動きは、新卒採用に関する大きな変化といえるでしょう。
学生の志望度を向上させる「募集」「選考」「内定者フォロー」のプロセス
【募集】
2020年度は、大勢の学生と多数の企業が直接接触を持つ大型の合同採用イベントなどが制限されました。代わりに、「募集」については、デジタル面での集客が鍵になりました。オンライン上で膨大な情報が自由に行き交うなかで、各社は自社の存在感をアピールし、学生に興味を持ってもらわなくてはなりません。「そこでポイントになるのは、今まで以上に採用ターゲットを明確にし、ターゲットに合わせた手段でリーチすることです」(戸塚)
採用ターゲットをあいまいなままにしておくと、十分な母集団を形成できない、もしくは、数は集められても質を伴わないという事態になってしまいます。戸塚はこう続けます。
「採用に関する情報を拡散するときには、学生に合わせたSNSを活用するなど、マーケティングの強化がポイントになります。ターゲットを明確にする段階から私たちのような第三者のエージェントが入って、学生にリーチする方法までをコンサルティングすることで、採用の質を上げることも有効だと思います」
【選考】
新型コロナウイルスの感染拡大防止対策を入念にしたうえで、従来通りの対面で「選考」を行う企業もありましたが、圧倒的にオンラインが主流となりました。オンラインであっても、学生の志向性、ポテンシャルを見極める工夫が新たに必要になります。オンラインだと学生の参加ハードルが下がるので、採用ターゲット外の学生が増えるという問題点も出てきます。
「学生からは、説明会はオンラインで行っても、選考は対面で行ってほしい。そのほうが気持ちを伝えやすいし、企業の雰囲気も伝わりやすいという声も上がっています。今後はターゲットに合わせて、デジタルとフィジカルを使い分けて選考を進める動きが必要になるでしょう」(戸塚)
【内定者フォロー】
「内定者フォロー」も「選考」と同様に、節目節目でデジタルとフィジカルを組み合わせてコミュニケーションの質を高め、自社についてより理解してもらえるような工夫を重ねていきます。
コロナ禍で内定取り消しなどが不安な学生に対しては、企業側がいかにその不安を察知して、率直に言葉をかけてフォローしていくかが大事になります。「LHHとしては、学生が滞りなく内定から入社に至るように、学生と企業を両面から適切にフォローしていきます。クライアント企業と共同で、内定承諾から入社までをフォローするプログラムを開発することもあります」(戸塚)
企業と学生のミスマッチを防ぐためには“ビジョンマッチング”がポイントに
企業と学生のミスマッチを防ぐためには、年齢や学歴、性別などの条件だけでのマッチングではなく、価値観や将来像などを擦り合わせる「ビジョンマッチング」を意識する必要があります。企業が自社のビジョンやコンセプトを学生に伝えるためには、デジタルの場がメインになるので、イラストや動画を使ってわかりやすく伝えるコンテンツを作る必要があります。
「私たちがエージェントとしてミスマッチを防ぐ方法は、候補者(学生)からビジョンを引き出す努力をすることです。ビジョンを引き出すためには、学生側の自己分析やキャリア観の形成が前提となります。LHHが企業対応と求職者対応を分けないで両面型の人材紹介を行っているのは、学生と深い部分でコミュニケーションをとり、自分が将来どうなりたいのかをしっかり自己理解できるように手助けし、そのビジョンを引き出すためです。学生からしっかりビジョンを引き出したうえで、企業のビジョンとマッチングさせるという点が、ミスマッチを防ぐ最も重要なポイントになると思います」(戸塚)
新卒で採用する人材像を今一度、問い直す
従来の日本の働き方である会社に属して働く「メンバーシップ型」から、職種やスキルを重視した「ジョブ型」に移行していく動きが進むなかで、働く個人がキャリアビジョンを明らかにし、その実現を図るために主体的にキャリアを形成する必要があります。一方で、個人のビジョンと組織のビジョンをひもづけて、互いに成長する関係性を築くことが、企業の課題となっています。
「そういった点からも新卒採用の場面において、企業側は、『自社のビジョンを実現するために、なぜ今、新卒採用をする必要があるのか?』というところから振り返ることも大切です。また、採用の現場でのデータ活用も進んできているので、既存社員の特徴や考え方などをデジタルの力を使って見える化したうえで、新卒で受け入れたい人の理想像をつくることもおすすめです」(戸塚)
学生側のキャリアビジョンを引き出し、志望度を上げる策を練る
コロナ禍による新卒採用市場の変化やオンライン化の流れもあり、より大事になってきているのが、企業側と学生側の「ビジョンマッチング」です。企業側は、インターンや説明会、面接時に自社のビジョンを学生に伝えることはできますが、学生のビジョンを引き出すことはなかなか難しい作業です。学生からビジョンを引き出し、企業と学生の間のビジョンのギャップを埋める役割を果たしてくれるのが、どちらにもアプローチできるエージェントという立場です。より戦略的な工夫を行い、採用の質を上げるために、エージェントに依頼してコンサルティングしてもらうことは有効な方法です。
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