スキルやキャリアに期待を寄せて採用した転職者。採用に膨大な労力や時間、費用等をかけたにも関わらず、試用期間や入社早々に退職に至るケースに頭を抱えた経験はないでしょうか。高いモチベーションを持って入社した転職者が、なぜ早期退職を選択したのか。企業は転職者のモベーション維持と向上にどう向き合うべきか、その理由と対処法を探ります。
データから見る「働くモチベーションで大事なこと」とは
「モチベーション」は、やる気・意欲と同義にされますが、総じて「何かをする時の原動力になるもの」を指します。しかし、「働くこと」において何が原動力となるかは人それぞれです。日経BP総研の「働きがいに関するアンケート」(2017年6月実施)の調査では、「働くモチベーションアップにつながるもの」という問いに対し、「給与が上がる」と「仕事から達成感が得られる」が同率34.0%でトップに、次いで「自分のやりたい仕事ができる」が32.3%という結果になりました。
男女別の回答率を比較してみると、男性は「自分のやりたい仕事ができる」がトップで38.7%。一方、女性が重視するのは「プライベートも充実させながら働ける」で32.0%でした。
優先順位が低いものは下から順に「若手や部下の成長を実感できる」4.0%、「経営者を信頼できる、尊敬できる」6.4%と、人材の育成や経営者の人望が直接的な原動力になりにくいことが見てとれます。
転職者の心理と働くモチベーションの特徴とは
それでは、転職者のモチベーションには、どのような傾向が見られるのでしょうか。転職後の心理状態について、株式会社JTBコミュニケーションデザイン ワーク・モチベーション研究所で「働く人のモチベーション」を研究している、菊入みゆき氏に伺いました。
「研究結果から、転職者は共通して高いモチベーションを持つことが分かっています。その理由としては、大きく2つ。
ひとつは、『自己洞察の深まり』です。転職を決断するまでに、『なぜ今の職場では駄目なのか』『辞めることで何がどう変わるのか』、自分の本質と向き合うことになります。こうした分析を経て、ある程度自己の理解ができた状態で転職するため、自ずとやる気が高まるのだと思います。
もうひとつは、『自己決定感』です。人は自分で選んだことに対しては納得感と向上心が高まります。転職自体が自己決定に基づいた行為なので、モチベーションの高まりに密接に関連しているのです」
転職時に自然と行っている「自己洞察」と「自己決定」が、モチベーションを高める要因になっていました。
さらに「業務遂行」「職務管理」も転職者のモチベーションに影響を与えるそうです。
「課題や目標をやり遂げる『業務遂行』は、仕事を自分事化できるかどうか、どこまで自分の責任として仕事を捉えられているかどうかを示しています。また、主導的に仕事を進める『職務管理』は、本人がスペシャリストだと自覚しているかどうかを測る項目です。転職者はこの2点をモチベーションの要因とする割合が比較的高くなっていました。つまり、自分が職場でスペシャリストとして機能できているかどうかによってモチベーションが左右される、ということになります」
では、転職者が入社後にモチベーションの高まりを感じるのは、どのような時なのでしょうか。
「転職者の多くに共通しているのは、問題意識が高いということです。環境に自分を合わせるのではなく、環境を変えていこうと試みるケースもあります。企業側も、転職者に専門スキルをだけでなく『異文化』も求めている場合があると思いますが、企業側から転職者の声を積極的に受け入れる姿勢を見せることで、転職者の働きがいが高まると考えられます」
モチベーションを維持させるための企業側の注意点
とはいえ、会社の方針やこれまで踏襲してきた仕事の進め方も考慮してほしい――。そうした思いが頭をよぎった時こそ注意が必要だと菊入氏は指摘します。
「転職者に接する時に、一番気をつけるべきは『同調圧力』をかけていないかどうかです。『あうんの呼吸』や『空気を読む、察する』という表現がありますが、日本の組織はこのような文化が定着しているケースが多く、なかでも大きな会社や伝統ある会社ほどこの傾向が強いと言えます」
社内に漂う暗黙のルールの存在が、知らず知らずのうちに転職者を追い詰めてしまうこともあります。特に、転職者は自己洞察を深めているため、自分にとって何が心地良い働き方かをしっかりと見定めていることが多く、同調圧力に強いストレスを感じ、モチベーション低下につながってしまうことが考えられます。
では、同調圧力をかけていないか、企業側が自分たちで気づくにはどうしたらいいでしょうか。
「そもそも私たちは『認知のバイアス』をかけていると理解することが大切です。認知のバイアスとは、自分が掌握できる世界を一般化して『自分が正しい』と思いこんでしまう状態です。口癖が『普通は○○だよね』になっている人は特に要注意です。転職者の行動や提案、発言に対して違和感を抱いたとしても、おかしいと決めつけずに、まずは客観的に理解するよう意識をシフトさせてみてください」
転職者のモチベーションを維持させるために、他にはどのような方法があるのでしょうか。
「一つは学習の場を設けるという方法です。転職者はスペシャリスト志向が高いので、専門能力の高まりがやる気の源泉になります。そのため、たとえば専門資格取得の支援制度を設けるなど、学習の機会や教育システムの提供がやる気に直結する可能性が高いです。
もう一つは、社内の横断的な活動に関わらせて、組織コミットメントを高めることです。転職者は人的ネットワークに乏しいことで、組織にどんな人がいるのか把握できていないケースが多いです。しかし、人脈とはイコール情報です。組織全体につながりを持ち、知り合いが増えると、情報を得られることになります。また、ロールモデルやメンターが見つかる可能性も広がり、帰属意識が高まります。こうした観点から、転職者こそ小集団活動に積極的にアサインすることをおすすめします」
LHHの強み
人材を採用するとき、求職者に経歴やスキルを聞きますが、仕事のやりがいや価値観、企業に求めることを聞くことは少ないのではないでしょうか。限られた面接時間の中では、そこまで深く話す時間はないかもしれません。また、求職者側も採用に不利となることを恐れて、多くを語らないこともあるでしょう。
LHHが導入している「360度式コンサルティング」は、求人企業と求職者の双方を同一コンサルタントが担当します。数人を介する伝達形式ではなく、一気通貫で担当することにより、両者の本心・熱量を誤解なく相手に伝えることができます。その結果、ミスマッチ、転職後の早期退職の改善へと繋げています。
プロフィール
明星大学経済学部特任教授
筑波大学大学院 人間総合科学研究科 博士後期課程修了(博士:生涯発達科学)。25年にわたり、ワーク・モチベーションに関する研究、調査、コンサルティングを行う。著書は「やる気が出なくて仕事が嫌になった時読む本」等多数。
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